「ルクレツィアさん」
自分の名前を呼ぶ声にルクレツィアが振り返るとそこにはシェロカルテが立っていた。ルクレツィアはすぐに腰を下ろしてシェロカルテと目線を合わせる。
「何かしら?」
「また例の手紙が来ているんですが~、どうされますか?」
シェロカルテが差し出してきた手紙に書かれた紋章を見た瞬間、ルクレツィアの顔が明らかに強ばった。それを目敏く見ていたシェロカルテは手紙をルクレツィアの視界の外へ隠そうとする。
「待って」
ルクレツィアのその声にシェロカルテの動きが止まる。
「今回は見せてくれるかしら?シェロカルテさん」
何かを決意したような目を向けてくるルクレツィアにシェロカルテは少し戸惑いながらも、彼女に手紙を差し出した。シェロカルテがこの手紙をルクレツィアに渡すのに躊躇うのは理由があった。というか、シェロカルテが首を突っ込んでしまったと言うべきだろうか。初めてこの手紙をシェロカルテが依頼人から受け取ってルクレツィアに渡した時、彼女はこの手紙を見た瞬間躊躇なく破り捨てたのだ。その時のルクレツィアの表情は酷いものだった。しかし、目の前でそんな事をされてしまったシェロカルテが理由を問い詰めると彼女は急に泣き始めてしまった。慌てるシェロカルテを前に彼女が泣きながら話した手紙を破り捨てた理由を聞いた時、正直自分が気安く聞くべき内容ではなかったと後悔する。触れるべきものでは無いものを触ってしまったのに少し罪悪感を抱いたシェロカルテは、彼女にその手紙が来た時は自分が処分すると自ら提案したくらいだった。静かに手紙を開けて読んでいるルクレツィアに少しハラハラしながらシェロカルテは見守っていたが、読み終わった彼女はただ静かに手紙を封筒に戻した。
「今回のは一応預かっておくわ」
そういうとルクレツィアは立ち上がった。前のように取り乱しはしなかったが、シェロカルテは何故かその時のルクレツィアに酷く不安を抱いた。いつもの優しく柔らかな彼女とは違う少し殺気だった雰囲気を纏っており、その姿はあの双子を思い出させた。
「シェロカルテさん……気を使わせてごめんなさい」
シェロカルテの方を向いて少し悲しそうに笑ってから、背を向けて歩き出したルクレツィアにシェロカルテは何も声をかけることが出来なかった。