飢餓と充溢の愛 04

ルクレツィアは机に向かって手紙を書いていた。それは遠くにいる誰かへの手紙ではなかった。

「……ごめんなさい」

ポツリと呟きながらルクレツィアは書いた手紙を封筒にしまう。そしてそのまま机の上に、手紙の入った封筒と自分の部屋の鍵を置いて床にある荷物を手に取った。これを置いていくのは単なる保険でしかない。何事もなくここに戻ってきて、この手紙を誰に読まれることも無く破り捨てられるのが1番いい結果だとルクレツィアは思っている。しかし、そうできない予感がしているから、ルクレツィアはここに手紙を残しているのだ。

「もう一度……戻ってこられるかしら…」

名残惜しそうにルクレツィアは、机の上に大切そうに置かれたネックレスを手に取る。それはカトルがホワイトデーにくれたもので、ルクレツィアにとってはかけがえのない宝物のひとつだ。本当なら勇気を貰うために身に着けていきたいところだが、壊すのが嫌なのでもう一度ここに帰ってこようと思うためにも置いていこうと決めたのだ。それでも、置いていくのは忍びない。これを置いていったことを彼がどう思うのかが少し怖い。それでも、ルクレツィアはネックレスをまた元の場所に戻した。この先も彼といるために、今からルクレツィアは行こうとしているのだ。だから、今はどんなに忍びなくても置いていこう。
そうしてルクレツィアは、自分の部屋の鍵を閉めることなく部屋を出ていった。

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